オーストラリア医師、レジストラを振り返る(パート4:コロナウイルス病棟)

 

西オーストラリア州におけるコロナウイルス対策は、医学的な面から議論すると、成功している(下記グラフはGoogleのデータ)。感染者がひとりでも確認された時点で都市をロックダウンし、爆発的な感染を防いできた。その対応は様々な批判を受けたが、ワクチン接種率が90%以上になるまで、コロナウイルスのアウトブレイクを経験することは一度もなかった。

 

西オーストラリア州におけるコロナウイルス新規感染者数

 

西オーストラリア州におけるコロナウイルス感染による死者数

 

ただ、ワクチン接種率(2回以上)が90%を超え、西オーストラリア州のコロナウイルス対策は新しい局面を迎えている。ワクチン普及のおかげで。ロックダウンの有無にかかわらず、医学的な損害(つまり人命)が経済的な損害を上回ることはないという見解が一般的になっている。つまり、コロナウイルスが広まることは受け入れて、経済活動を再開させる方針をオーストラリア政府は打ち出している

 

ワクチンが無い状態でコロナウイルスのアウトブレイクを経験したアイルランドの医師は、ワクチンが普及しているのとしていないのでは雲泥の差がある、と言った。ワクチンが普及していないときのコロナウイルス患者さんはほとんど人工呼吸器を必要としていたけど、人工呼吸器を必要とするコロナウイルス患者さんの数はワクチン普及後に激減した、と教えてくれた。もちろん、ワクチンを3回打っていたとしても、コロナウイルスに感染し体調が悪くなり、病院で人工呼吸器を必要する人もいる。ただ、その絶対数は圧倒的に少ない。

 

コロナウイルス病棟に入院していたAさんは、コロナウイルスのワクチンを3回摂取していた。しかし、ワクチン接種にも関わらず、家族がワクチンを一回も打っていなかったためウイルスに感染および発症し、その結果、Aさんにもコロナウイルスに感染・発症してしまった。80代のAさんは、糖尿病や心臓疾患、そして呼吸疾患などを患っていた。

 

Aさんの容態は人工呼吸器を使っても良くならなかった。誤嚥性肺炎のための抗生物質を投与していたが、容態が改善することなく、そのまま患者さんの苦しみを軽減することを目的とした Palliative Care にスイッチした。

 

一番の問題は、ワクチンを一度も打っていない家族が、病院でAさんと直接会うことが許可されなかった、ということである。家族は、ZOOMなどを使ったビデオ面会を通じてAさんの容態は確認できた(Aさんは人工呼吸器をしていて意識も混濁しており、家族と会話することはできなかった)が、ワクチンを無接種ということで、家族はAさんが死ぬ直前まで直接会うことができなかった。

 

現在Aさんの家族は、ワクチン非接種者への差別だと主張し、病院を相手取って人権はく奪を訴えた裁判を行っている。

 

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ごとうひろみち
『高校中退⇒豪州で医者』をいつも読んでいただき誠にありがとうございます。著者・ごとうひろみちに興味を持ってくれたあなたのために、詳しい自己紹介を←ここでしていますので、どうぞご覧ください。

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