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東京大学で先生をしている理研時代の友人にサインをもらった話

  最初は、オーストラリアの医学部を卒業してから医者として働き始めるまでゆっくりしようと思っていた。しかし、卒業式に出られないというアクシデントがあり、日本に帰国したぼくは、 異能vationのイベントに出たり(詳しくはこちら⇒リンク)、 Urdocアプリの創始者と対談したり(詳しくはこちら⇒リンク)、 日本の医学生にセミナーを開いたり(詳しくはこちら⇒リンク)、 と結構忙しくしていた。   そんな忙しいスケジュールの中で、ゆっくりと息を付ける時間も少しだけあった。以前対談させていただいた脳科学者・中谷裕教さんに再会することが出来たのだ。   【対談】なかたにひろのりxごとうひみち「英語の達人になるためのヒント」 https://www.youtube.com/watch?v=Fg08PCU06-g   現在、中谷さんは研究室を理化学研究所から東京大学へと席を移し、脳科学の研究を続けられている。また、東大生に対し教鞭も振るっているとのことだった。   中谷さんのことは自著『サイエンティストのお仕事』でも触れているが、枠にとらわれない思考を行動に移す人である。そんな中谷さんは、ぼくの「日本人の英語をネイティブにする」という突拍子もないアイデアを、アイデア誕生初期から温かく見守ってくれている唯一のアドバイザーでもある。二言目には「アドバイス料、払え、払え」と言うけれど、決してアドバイスを惜しむことがない寛容な人である。   ごとうひろみち著『サイエンティストのお仕事』   中谷さん自身が忙しいということもあり、お会いできたのは短い時間だった。それでも、中谷さんには、東大の駒場キャンパスを案内していただいたり、カフェで甘いものとお茶を御馳走になった。   そのとき、ぼくが感じたこと 東大生食堂で教科書開いて勉強している割合日本一(世界一)説 #水曜日のダウンタウン — ごとうひろみち (@iTELL_) 2018年12月20日   さらには、東大の本屋さんで購入した中谷さんの書籍『「次の一手」はどう決まるか』に、サインと一言を一筆書いてもらった。有名人と写真を撮ったり、サインをもらうことに価値をあまり見出さないぼくだけれど、友人の功績に触れることは素直に嬉しいものだと実感しました。     ちなみに、書籍のなかに伊藤正男先生が登場する。伊藤先生は理化学研究所・総合脳科学研究センターを創り上げた神経科学界の重鎮である(伊藤先生の功績はこちらを参照)。ノーベル医学生理学賞受賞者で、伊藤先生の師にあたるジョン・エックルスとともに書いた書籍『脳の進化』は様々なアイデアが盛り込まれた本である。   『脳の進化』   そんな偉大な伊藤先生だが、ぼくが日本にいたときにこの世を去られた。90歳だった。理研時代に聴いた伊藤先生の講演を思い出し、東京のコンクリートジャングルでふと、こんなことをつぶやいた。   LTD, BSI等、神経科学界に与えた功績は数知れず。データに基づくロジックだけでなく、イマジネーションの大切さを説かれた偉大な先生。御冥福をお祈りします。 https://t.co/uz2OukxdNC — ごとうひろみち (@iTELL_) 2018年12月21日    

最年少7段将棋棋士、天才・藤井聡太に脳科学が迫る

  ぼくはオーストラリアに移住する前、日本の理化学研究所・脳科学総合研究センター(通称 RIKEN BSI)で働いていた(糸原重美先生には、大変お世話になりました)。そのときのことを書籍にしたのが著書「サイエンティストのお仕事」である。   「サイエンティストのお仕事」 RIKEN BSIには面白い研究者がたくさんいる。そのなかでも、中谷裕教さん(東京大学大学院総合文化研究科 進化認知科学研究センター 助教)はダントツでぼくの記憶に残っている。中谷さんとの思い出は、上の書籍で語っているため控えるが、その中谷さんが最近とてもタイムリーな書籍を出版された。   中谷さんの書籍のテーマは、将棋である。そして、書籍のタイトルは 「次の一手」はどう決まるか である。   巷では、藤井聡太氏(15歳)が最年少で7段に昇段したことが話題になっているが、中谷裕教さんは、藤井聡太氏が注目されるずっと以前から、羽生善治氏のような天才将棋棋士たちの脳を研究し、天才と凡人を分けるものがどこから生まれているのか?ということを研究している。   中谷裕教さんの研究は、【対談】脳科学者なかたにひろのり x ごとうひろみち「英語の達人にあるためのヒント」でも触れられている。   https://youtu.be/Fg08PCU06-g   天才の脳は、凡人の脳と違うのか?違うなら、どこがどう違うのか?そんなことに興味があるあなたは、この書籍を手に取って読んでみてほしい。    

【驚愕】理研の脳センターでのぼくの仕事、数えたら9本の論文があることが判明

  ぼくはいま、オーストラリアの医学部卒業に向けて、コリーでへき地医療研修をおこなっている。   オーストラリアに永住する前は、埼玉県の和光氏にある理化学研究所・脳科学総合研究センターの糸原重美先生のラボで働いていた。    ごとうひろみち著「サイエンティストのお仕事」 最近になって、ぼくがラボで立ち上げを任されていた行動実験のデータが論文になるかもしれないという連絡をいただいた(まだ正式には発表されていないが、論文の受理が決定したら、そのときはブログで発表します)。   今回の記事は、「理研時代にどんな仕事に関わっていたんだっけ」と思いながらResearch Gateの自分の研究者ページを眺めていた時に分かったことを、あなたにシェアしておこうと思う。   簡単に言うと、Peer-reviewed journalではないものも含めると、全部で9つの論文があることが分かったのだ。ぼくが主著者である論文はひとつもないが、それでもこれだけの論文に関われるだけの仕事をしていたんだと思うと、素直に嬉しくなる。また、それ以上に、研究成果を論文として発表できるほどの能力を持った研究者たちと同じ職場で働けたことを考えると、本当に幸運だったんだと思う。深い感謝の念を覚える。   それでは、Research Gateに掲載されている(だれが掲載したのか知らないが)論文は、以下9つである。古いものより。   1.The cholinergic medial habenula-interpeduncular pathway is critical for impulse control(論文) 2.Comprehensive behavioral analysis of Rac-GAP α-chimerin deficient mice(論文) 3.The role of cAMP-GEF II/RapGEF4/Epac2...

理研・脳センターでぼくが携わった4つの仕事

  ぼくは、オーストラリアに永住する直前まで、世界最高峰レベルにある理化学研究所・脳科学総合研究センター(以下、理研BSI)でサイエンティストの仕事をしていた。ぼくが仕事をしていたころは、STAP細胞問題が起きる前だったので、比較的平安な状態で仕事をすることができた。   ぼくを含むほとんどの脳科学者は、心・精神といういうものが分子レベルで解明できるという仮説をもっている。この仮説を証明することはまだまだ先のことかもしれないが、いずれそうなるとほとんどの脳科学者は考えながら毎日の研究にいそしんでいる。   ぼくが理研で携わった研究は、3つの論文として成果を出した。   Genetic dissection of medial habenula-interpeduncular nucleus pathway function in mice. 論文はこちら。 Netrin-G/NGL complexes encode functional synaptic diversification. 論文はこちら。 Diversification of behavior and postsynaptic properties by...

磁気遺伝学

  この記事では、 神経科学の発展スピードについて、 個人的な感想を述べたい。   ぼくは西オーストラリア大学で神経科学を専攻し、 日本の理化学研究所の脳科学総合研究センターで働いていた。   ぼくが行動遺伝技術開発チームで働いていたときに 感動した技術がある。   それは、光遺伝学(Optogenetics)と呼ばれるもので、 簡単に説明すると、細胞に遺伝子改変を行い、 光を使ってその遺伝子(またはタンパク質)を ON にしたり OFF にしたりする技術である。   この技術は神経科学の分野で幅広く適用され、 さまざまなエキサイティングな研究結果が世界で報告され、 2010年にはネイチャーメソッドの 「メソッド・オブ・ザ・イヤー」に選ばれている。   https://www.youtube.com/watch?v=I64X7vHSHOE   Optogeneticsの欠点は、 遺伝子改変を行なった細胞に 光を物理的に照射しなければならないところにある。   たとえば、脳の内側に位置する視床(Thalamus)の細胞を Optogenetics を使って制御しようとすると、 光は頭蓋骨を貫通しないため、 光ファイバーを視床(Thalamus)まで物理的に持ってくる必要がある。   その過程において、 脳表面から視床(Thalamus)までの 細胞を破壊しなければならない。   脳機能の多くはネットワークの産物であるため、 あるパーツを破壊してから、 別のパーツの働きを研究することは、 光遺伝学が持つ大きな欠点だった。   行動遺伝のメンバーとこの欠点について議論したとき、 「磁場」を使うことでこの欠点が解消されることは (磁場は頭蓋骨を傷付けずにあっさりと貫通する) 誰の目から見ても明らかだった。   ぼくらはまだ実現もしていない、 磁場を使って遺伝子の ON と OFF を操作する技術を 磁気遺伝学 (Magnetogenetics) と勝手に名づけた。   そして、Nature 誌でその名前が採用された・・・わけではない。 たまたま同じだっただけである。   https://www.youtube.com/watch?v=Mq1mYifs5QE   あれから数年の間に、 磁気遺伝学の実現につながりそうな論文がちらほら出始めた。   そして、あの他愛の無い議論から約6年後、 Nature Neuroscience に 『Genetically targeted magnetic control of the nervous system』 という論文が発表された。   磁気遺伝学(Magnetogenetics)の 日の出を象徴するような研究である。   Optogenetics から Magnetogenetics への発展についてふと思ったのは、 研究者がある科学的好奇心を持つと、 その技術は5,6年で日の目を見るのではないかということだ。   もちろん、好奇心がつねに実りにつながるわけではない。 ただ、必然性のある技術はおそらく 5,6年で実現するのではないだろうか?   研究に取り組む大学生・大学院生・研究員の皆さん、 あなたの研究もこれからの科学を大きく変える、 必然性のあるものかもしれません。 応援しています。     出典:wallpaperswide.com    

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