Tag: 3年生

オーストラリアの医学生が先住民の医療格差を埋めるためにやっているプロジェクト

  以前の記事で、 オーストラリアの医学格差の問題に触れた。   問題(前記事より抜粋) 同じ人オーストラリア人なのに、 非先住民と先住民という違いだけで、 寿命が10歳も違ったり、 心臓病、糖尿病、腎臓病の罹患率など、 様々なところで医療の格差が存在する。 この格差をGapと呼び、 オーストラリア政府は、 医療だけでなく、政治、経済、教育などの 多面的な取り組みによって このGapをなくそうとしている。 (Closing the Gapのことを知りたい方は、こちらをどうぞ)   ぼくが問題解決のためにやっていること ぼくは医学部生として、 大学のService Learningという活動に従事している。 これは、以前の記事で触れたプロジェクトのことである。 活動をさせてもらっているのが、 Clontarf Academyと呼ばれるNPO団体で、 主にBroome Senior High Schoolと St. Mary's Collegeの高校生を対象に、 健康と予防に関する授業、 スポーツ大会中の体調管理、 終業式の応援スピーチなどを行った。     このプロジェクトを通じて 学ばせていただいたことは、 高校生がオーディエンスであるばあい、 授業の内容を入念に作り込まなければいけない、ということだ。   Clontarf Academyとの準備会議で、 「衛生」と「傷の治療」について 授業をしてほしいと言われていた。   でもぼくは、 高校生を相手に 「衛生」の大切さをストレートに訴えても、 だれも聞いてくれないだろうなぁと思った。   だから、ぼくは衛生を教えるのではなく、 「デート」という高校生にとって切実な問題を、 「衛生」につなげて教えることにした。   その時の実際の映像がこちら。 プレゼンのタイトルは、 How to get a date (デートに誘うための秘密)です。 その一部をどうぞ。   https://youtu.be/WHGng8yVQFc   「衛生」を「デート」につなげるという、 このひと工夫が功を奏し、 みんな目をキラキラさせながら、 ぼくのプレゼンに耳を傾けてくれました。   子供たちが興味を持って 授業を聞いてくれたおかげで、 授業後のテストの成績が 授業前と比べて格段にアップしました。   テストの成績なんかより、 「衛生」「傷の治療」の大切さを、 子供たちに卒業してからも 覚えてもらえたらと心より願っている。   追伸:恥ずかしいことに、 「デート」の授業が終わった後から、 みんなに"Dating Guru, Hiro"と呼ばれるようになりました。 とくに、病院に来た高校生からそう呼ばれると、 同僚たちからからかわれたりします。 "Hey guru, how can I ask Miranda Kerr out?"って。 もちろんぼくは "No,...

オーストラリアの医学生がへき地で受ける「小児科」の教育

  産婦人科が終わると、 つぎは小児科のロテーションに入る。   ぼくが医学部3年生を過ごしているブルームにも、 たくさんの子供たちがいる。   お母さんの後ろに隠れているシャイな子もいれば、 ぼくの首にかけてある聴診器を掴んで遊ぼうとする子もいる。   4週間の間にいろんな子供たちに出会った。   その中でも、 先住民の子供たちは、 心に残っていることが多い。   というのも、 先住民ではない子供たちとは 違った病気にかかることがあるからだ。   そのなかでも、 印象に残っている症例を3つ挙げてみようと思う。   女の子A(4歳) 1か月前、 裸足で走り回って右足に切り傷を作り、 そこが腫れ物になり化膿する。 高熱、腹痛、嘔吐があり、 病院で抗生物質をもらい回複する。   その後、 関節の痛みを訴え、 母親に連れられて緊急病棟に来る。   ぼくがAちゃんの顔を診ると 目の周りに浮腫があることが分かった。   尿検査をすると、 大量の血液とタンパク質が検出された。   写真の女の子は、 Aちゃんではないが、こんな感じだった。   出典:www.slideshare.net   男の子B(7歳) 数週間前、 B君はお母さんに連れられて ビジダンガ・クリニックに来る。   症状は、のどの痛みを伴う風邪の症状だった。 ウィルス性の症状だろうと 抗生物質は処方されていなかった。   ぼくが、クリニックで診たときは、 関節の痛み、発心、舞踏病があった。   かすかではあったが、 心雑音も聞き取れた。   舞踏病とは、 連続的な無意識な筋肉の動きのことで、 踊っているように見えることから名前が来ている。   動画の子は、 B君ではないが、 こんな感じだった。   https://www.youtube.com/watch?v=HOalYWvVLU8   男の子C【12歳】 一年前に、 のどの痛みを伴う風邪の症状があり、 抗生物質をもらい回復する。   ぼくが、Beagle Bay ClinicでC君に会った時は、 息切れと胸の痛みが見られた。   胸に聴診器を当てると、 これまで聞いた中でも一番はっきりとした心雑音が聞こえてきた。   12歳の若さにもかかわらず、 心臓に異常があることは一目(聴)瞭然だった。   彼の心臓音はこんな感じだった。   https://www.youtube.com/watch?v=vL0s_nEkC8Q     これまで、 ぼくが出会った3つの症例を紹介した。   目の周りの浮腫が出たAちゃん、 舞踏病に悩まされたB君、 心臓を患っているC君。   なぜ、3人の症例がぼくの印象に残っているかお分かりだろうか?   実は、これらの症例は一見まったく違った病気のようだが、 病態生理学的には同じで、 Group A Streptococcus(A 群溶血性レンサ球菌)による感染症が原因なのだ。   そして、この3つの病気に共通することが、もうひとつある。 それは、治療を受けなければ、 AちゃんもB君もC君も若くして死んでしまう、ということだ。   日本を含め、 世界中の子供は、 Group A Streptococcusに感染する。   でも、ほとんどの子供は、 Post-streptococal glomerulonephritis (Aちゃん)、 Rheumatic Fever (B君)、 Rheumatic Heart Disease(C君)などを発症しない。   もっと、詳しく言うと、 先住民ではないオーストラリアの子供たちもほとんど罹患しない。   それにもかかわらず、 Group A Streptococcusの合併症にかかる 先住民の子供たちは少なくない。 統計によると、世界最悪にちかい罹患率である。(詳しくはこちら)   ここに、オーストラリア医療の大きな問題が残されている。   Group A Streptococcusの合併症だけではない。 同じオーストラリア人なのに、 非先住民と先住民という違いだけで、 寿命が10歳も違ったり、 心臓病、糖尿病、腎臓病の罹患率など、 様々なところで医療の格差が存在する。   この格差をGapと呼び、 オーストラリア政府は、 医療だけでなく、政治、経済、教育などの多面的な取り組みによって このGapをなくそうとしている。 (Closing the Gapのことを知りたい方は、こちらをどうぞ)   ぼくも、オーストラリアの医学生として、 この取り組み『Closing the Gap』に参加している。   ぼくが行っている活動は、 Service Learningの一環で、 先住民の高校生を相手に 健康について授業を行っている。     出典:www.healthinnovation.org.au  

オーストラリアの医学生が見たへき地ブルームの週末マーケット

  ぼくの土曜日は、 7時起床で始まった。   毎週土曜日に行われている ブルーム・マーケットに行くためだ。   マーケットは地方裁判所の敷地内で行われ、 ブルーム名物の真珠だけでなく、 キンバリー特有な植物の実、 現地のアーティストの絵画などが盛んに売られていた。 日本の方が出しているお店もあった。   ぼくは、 マーケットをゆっくりとしたペースで歩きながら、 並べられている商品を眺めた。   珍しい真珠の首飾りや美しい絵葉書などを買うこともあったが、 毎週掘り出し物があるわけではなかった。   それでも、 毎週土曜日、 ぼくはマーケットで 「80セント・ドーナツ」を買って帰った。   ブルームの隠れ名物と呼ばれている。   特別なドーナツではない。 ただのドーナツだ。普通に美味しい。   特別である必要はない、 普通が似合う、ブルームならではの味だ。   ぼくの毎週土曜日は、 普通に美味しいドーナツで始まりを告げた。   https://www.youtube.com/watch?v=sqC0wrM0Kkk  

オーストラリアの医学生がへき地のGibb River Roadを旅した話

  医学部3年の前期と後期の休みに、 同級生たちとキャンプ旅行をした。   ブルームからカナナラを往復する 10日間の旅だ。   ぼくらは前もって 行く先や食事のメニューなどを 入念に計画した。   医学部生と旅をすると本当に安心だ。   出発は早朝で、 大学から借りたトヨタの4WDランドクルーザーに、 キャンピング用具、食料と水を乗せて旅に出た。   ぼくは旅行先のことをあまりリサーチせずに旅に出た。   どこにいくのかあまりわかっていない状態だから、 特に大きな期待も無く、 どんなところであれ十分に楽しむことができた。   いや、正確には、 滞在したところを十分にリサーチしていたとしても、 実際に行ってみないと感じることができない経験がたくさんあった。   Gibb River Roadの旅は、 ぼくが行ったオーストラリア旅行のなかでも 最高のもののひとつに挙げられる。   無数の写真と動画を撮ったが、 全部見るのは大変なので、 ぼくの印象に残っているシーンを少しだけシェア。   https://www.youtube.com/watch?v=E2aphjspzpw   Gibb River Roadは、 どこに行っても、 素晴らしい経験ができる旅のコースだ (現地で30年以上もキャンプしている人の話)。   旅行ガイドを捨てて、 赴くままに旅をしてみよう。 目的地なんて、 風吹くところにいけばいいのさ。      

オーストラリアの医学生が見たクロコダイル・パーク

  ブルームは毎年、 「クロコダイルがビーチに出た」 というニュースがある。   今年も例にもれず、 ケーブルビーチで クロコダイルがのっそのっそ歩いているところを 目撃され捕獲されている。   パースにいるころから、 ぜひとも天然のクロコダイルを 見てみたいと思っていた。   下のような動画は御免だが、 なんとか目にしたいと願っていたが、 ついに遭遇することはなかった。   https://www.youtube.com/watch?v=sdovgKgpf00   でも、ブルームに来たからには クロコダイルは見ておこうと、 ぼくは友達と車で 15分ぐらいのところにある クロコダイル・パークを訪れた。   入口は、 クロコダイルが大きく口を開けているので、 そこから中に入る。   すぐにお土産売り場がり、 クロコダイルの歯や クロコダイルの財布などが売られている。   お土産屋を通過すると、 奥にチケット売り場がある。   チケットを売っているおばさんに、 「もうすぐクロコダイル食事ショーが始まるわよ」と言われ、 チケット売り場すぐ外の長椅子が 並べられているところを指さされた。   会場に置かれている長椅子に、 観客が世間話をしながら 座り始めているのが見えた。   餌付けは鶏である。 羽は付いてないが、 もちろん調理などはされていない。   白い鳥肌が浮いている生の鶏が丸ごと一匹だ。   男性の飼育員が鶏肉を手に持つと、 ぞろぞろクロコダイルがこちらに向かってくる。   湖面の下で場所取りをしながら 争っているクロコダイルも見える。   でかい。   3~4メートルあるだろうか。   飼育員が鶏肉を天にかかげる。 クロコダイルが鶏肉をめがけて、グバァン!   グバァン! クロコダイルが鶏肉をもぎ取ろうと 顎をかみ合わせた音だ   鉄板プレス機が、 高速で動いたようなすさまじい音だ。   集まってきたクロコダイルの中に、 足がないものが数匹いた。   そのことを飼育員に聞いたら、 次の動画を見せてくれた。痛い。怖い。   https://www.youtube.com/watch?v=PSe2j-izIWY   パークの中は飼育員と 共に歩いて観覧することもできるが、 自分でゆったりと歩きながら 観覧することもできる。   ソルティ・クロコダイルや フレッシュウォーター・クロコダイルだけでなく、 ディンゴや無数の鳥がパーク内にいる。   ぼくは、 子供のクロコダイル (たぶんフレッシュウォーター・クロコダイル)に 触れられただけでも、 来てよかったと思えるところだった。   クロコダイルの歯をお土産にしようかと思ったが、 奥の虫歯が少しうずいたので、 結局買わずにパークを後にした。   https://youtu.be/afYq0olV4VQ  

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