最近のニュース記事の中に、「TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている、と専門科が指摘」 というものがあった。猪浦道夫氏が書いている。
まず、記事に触れる前に、みんなに頭に入れていてもらいたいことがある。それは、
Extraordinary claim requires extraordinary evidence.
(極論は、極上の証拠を必要とする)
ということである。
ぼくは「TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている」という主張を、極論のひとつだと考えている。極論は、ひとの思考・行動を左右しがちであるため、その主張の裏付けがなされているかどうかを注意深く観察しなければならない。以下は、ぼくなりの分析である。読者も自分で記事を読んで判断することを強くお勧めする。
それでは、記事の主張をまず見つけよう。これは簡単だ。タイトルに書かれている。
猪浦氏の主張
TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている。
次に、この主張となる証拠を探してみよう。ぼくは科学者なので、どうしても「TOEICを勉強している人の知的レベル vs TOEICを勉強してない人の知的レベル」の比較実験のデータを探してしまうし、みんなもそうするべきだと考える。なぜなら、そのデータが無ければ、「TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている」が正しいと主張できないからだ。
そのデータは記事にはなかった。
しかし、比較実験のデータが無いときもある。データが無いから「TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている」という主張が間違っているとはならない。The absence of evidence is not the evidence of absence.ということを忘れてはならない。
ということで、記事を読んで、著者が「TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている」の根拠としている部分を探してみた。それが、これだ・・・1,2,3・
猪浦氏の根拠
TOEIC偏重の英語教育が、母国語教育に悪影響を与えている。
著者のロジックはこうだ。「TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている。なぜなら、TOEIC偏重の英語教育が、母国語教育に悪影響を与えているからだ」となる。
残念ながら、批判的に物を考える人は、これは「主張+根拠」と解釈せず、それよりも「主張+主張」であると考える。つまり、証拠として掲げられている「TOEIC偏重の英語教育が、母国語教育に悪影響を与えている」という部分も、証拠が必要な主張であると考えるのだ。
1番目の主張の時のように、「TOIECを勉強している人の母国語力 vs TOEICを勉強してない人の母国語力」の比較実験のデータが無ければ「TOEIC偏重の英語教育が、母国語教育に悪影響を与えている」と主張できない、とぼくは考える。
ごとうひろみちの結論
ひとつの主張をもうひとつの主張で裏付けてもそこに正当性は生まれない。よって、猪浦道夫氏の「TOEICは日本人の知的レベル低下を招いている」は根拠がとても弱い、とぼくは結論する。
ちなみに、ぼくの結論は、科学的なデータの出現によって変わってくる(し、変わらなければならない)ことを忘れてはならない。何を主張するかはあまり大事ではない。大事なのは、そこにどんな証拠があるかということである。
猪浦氏の主張の正当性はまだ弱いと考えるが、今回の記事の中にはぼくも賛同する部分がいくつかある。TOEIC偏重教育に警鐘を鳴らしている部分や、英語学習の目的をハッキリさせる重要性、そして渡辺昇一先生や大津由紀雄先生の言っていることなどがそれだ。
また、猪浦道夫氏が言いたい「母国語をまず磨け」という主張は、林修氏の主張と同じである。興味がある方は、こちらの記事「【検証】林修氏の「幼児に英語教育は不要」は正しいのか?」を読まれたい。
最後に、ぼくは、従来の英語試験(英検、TOEIC、TOEFL)は「英語で夢を叶える能力」と関係がないという主張を長年してきている。このことは、セミナー動画「なりたい自分に最短でなれる英語勉強法」で触れているので、ぜひご覧ください。