Osbourn Park Hospitalのリハビリ科には様々な患者さんが来る。大抵は、Sir Charles Gairdner Hospital で治療を受けて容態が安定した患者さんが、Osbourne Park Hospital に移り、帰宅退院するまでに必要なリハビリに専念する。
たとえば、Above knee amputationの手術は成功したけれど、まだプロステーシスの使用になれていない患者さんは Osbourne Park Hospital で義足の取り付け方・使い方を学んだり、義足なしでの移動方法などを、理学療法士や作業療法士などとともに習得していく。
理論上は、Osbourne Park Hospitalの患者さんに急性の医学的な問題はなく、リハビリ技術の習得がゴールになる。しかし、人間は複雑性の塊で、医学的問題が解決すれば、医者の役割がなくなるわけではない。
Aさんはカルバリに住む78歳の男性で、Osbourne Park Hospitalにいるのは前立腺手術後のリハビリが目的だった。手術後のリハビリはスムーズにいっていた。しかし、Aさんは結果的に、ぼくがリハビリ科のレジストラ医師として働いた期間(3か月)より長い間 Osbourne Hospitalに入院していた。
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というのも、Aさんは最近のハリケーンのせいで家が倒壊しホームレスになっていた。倒壊した家を修理するだけの貯蓄もなく、ふたりの息子さんとも疎遠で、退院後の生活に問題があることは明らかだった。
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リハビリチームにとって、一番大切なことは患者さんの回復である。そのため、患者さんの意向に反することはなかなかしない。でも、Aさんの場合は違った。作業療法士の検査によって、Aさんに中度の認知症が存在することが疑われたからだ。慎重に検査は続けられ、最終的にAさんは認知症のせいで生活に関する適切な判断をすることができないと結論付けられた。
そこで、リハビリチームは、Aさんと息子さんと家族会議をして、退院に向けてどんなゴールをクリアしなければいけないか、を明らかにしていった。これはとても労と時間がかかる作業で、まずは疎遠になっている家族同士が話をできるようにすることから始めなければならない。Aさんもふたりの息子さんもとても頑固で、自分たちの意見が一番正しい、という立場をとった。
県局、リハビリチームは、州政府のState Administrative Tribunalの傍聴をビデオ会議で申請し、Aさんと息子さん二人に参加してもらい、結果、長男がAさんの金銭的な決断を行い、次男がAさんの医療的な決断を下す、という判決をもらった。
Aさんは傍聴中に激高し、「わたしはこれまで自分の生活は誰も頼らずに自分ひとりで切り盛りしてきた」「これまで自分を無視してきた息子たちに、私の金銭的な問題や医学的な問題に任せるほど、わたしは落ちぶれていない」となどと大声を上げ、スクリーンの向こう側にいる法廷の担当者に食ってかかっていた。
Aさんの問題は、ぼくがリハビリ科のレジストラ医師として働いている間に解決することはなかった。風の便りによれば、最終的にAさんは長男が所有する家に引越しし、そこから外来のクリニックに通いながらリハビリ生活を継続しているという。次男は、Aさんから金銭的な財産をもらえないことが分かった途端、連絡をしなくなったという。