現場の医者が医学生に教える生の授業

 

臨床研修: 救急医学

 

救急病棟の外には、

セキュリティーふたりに取り押さえられている

20代後半の男性がいた。

 

男性はうつぶせになり

身動きができないものの、

セキュリティーに対し

悪態をついていた。

 

ぼくの救急医学の研修は、

Sir Charles Gardner Hospitalという

病院で行なわれた。

 

ここは公立病院で、

ぼくの家から歩いて

3,4分のところにある。

 

その日は、

青空が綺麗な日だった。

 

また、お昼時で、

病院に入っていく人も出て行く人も

なんとなく気の抜けた顔をしていた。

 

男性を取り押さえていたセキュリティのひとりが

近くにいた看護師さんに

「Get a doctor」

と叫んでいるのが聞こえ、

ぼくの耳の後ろから後頭部にかけて緊張が走った。

 

ぼくはポケットに入れていた

腕時計を取り出した。

 

12:50PM。

 

臨床研修の集合時間は

13:00PM。

 

医者と看護婦が

この状況にどういう対応をするのか

を見ていたかった

(スキあれば医療チームに加担したかった)が、

約束の時間に遅れてはいけないとおもい、

ぼくは救急病棟の中へと入っていった。

 

ナースステーションの男性に、

「UWAの医学生で、

Dr. Erclereさんと臨床研修の約束があるのですが」

と伝えると、

ぼくのほうには目もくれず、

「もう少ししたらここに来るから、

適当なところで待っていてちょうだい」と言い、

外の喧騒をじっと見つめていた。

 

ぼくは近くの椅子に座り、

救急病棟にいたみんなと同じように、

外の喧騒をドアのガラス越しに見つめていた。

 

2,3分すると、

先ほどの看護師とひとりの女医が

救急病棟の外へと早歩きで出て行った。

 

女医さんは患者さんに何か話しかけていたが、

これじゃ埒が明かないといった表情で、

隣の看護師さんと少し話し合い、

持っていた注射器を手に取った。

 

針の安全キャップを取り外し、

うつ伏せになっている男性の右太ももに薬を注射した。

 

90度の角度で注射していたので、

鎮静剤(Risperidone?)か何かを

筋肉注射したのではないかと思われる。

 

ぼくは

注射した薬剤が効き始めるまでの時間を計ってみようと、

ポケットに入れていた腕時計を取り出した。

12:58PM。

 

「驚いたかい?」

とぼくに話しかけてきたのは、

Dr. Erclereさんだった。

 

とてもハンサムで

目じりのしわが

彼の感情の豊かさを表していた。

 

Dr. Erclereさんにとって

外の喧騒は日常茶飯事のことのようで、

何事も無かったかのように、

ぼくらは救急病棟の奥へと入っていった。

 

Dr. Erclereさんは事前に、

入院していた患者さん3名に許可を取り、

医学生(ぼく)が質問できる環境を作ってくれていた。

 

ぼくが問診をしたのは、

胸の激痛で担ぎ込まれた肥満男性、

大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った40代の女性、

激しい頭痛に悩まされる20代の女性だった。

 

ぼくは授業で学んだ、

SOCRATES (Site, Onset, Character, Radiation,

Associated symptoms, Timing,

Easing/Exacerbating factors, Severity)

と Comprehensive History

を患者さんから聞き出した。

 

問診が終わり、

患者さんに感謝をしてその場を離れると、

Dr. Erclereさんはぼくに質問をした。

 

What do you think it is?

What do you know that can cause the presentation you’ve just seen?

 

医学の勉強をして間もないぼくには、

とてもシンプルな答えしか出てこなかった。

 

分からないときは正直に I don’ knowと答えた。

 

これはぼく個人の意見だが、

医学生にとって大切なことは、

正しい診断を下すことよりも、

正しい臨床的質問をすることではないかと思う。

 

正しい臨床的質問をすれば、

大体のケースにおいて正しい診断が

自然に導き出されることを教えることが

医学部の勉強ではないかと思う。

 

Dr. Erclereさんも

この考えを持っていたようで、

答えそのものよりも考えることが大事だよ

とアドバイスをくれた。

 

「考える」ってなんだろ?

 

医学生には、

こんな風に考えなさいという枠組みが叩き込まれる。

それを踏襲することが考えるということなのだろうか?

 

話は変わるが、

「救急医学」と聞くと皆様は何を思い浮かべますか?

 

ぼくは、

アメリカのドラマ『ER 緊急救命室』

を思い浮かべます。

 

とてもいいドラマだとおもいます。

 

日本にもこんな良質なドラマが

いつか制作・放送されることを願っています。

 

興味のある方はDVDセットをどうぞ。女優さんも男優さんも上手い役者さんばかりです。

 

 

出典:wikipedia

 

 

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ごとうひろみち
『高校中退⇒豪州で医者』をいつも読んでいただき誠にありがとうございます。著者・ごとうひろみちに興味を持ってくれたあなたのために、詳しい自己紹介を←ここでしていますので、どうぞご覧ください。

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