オーストラリアの医学生が受ける救急医学の研修

 

2度目の救急医学の臨床研修は、

Armadale Hospitalで行なわれた。

 

病院は、

パース市内から電車にSherwood駅に行き、

そこから10分ほど歩くと到着する。

 

駅から病院へのバスが

無かったのにはびっくりした。

 

どうやら、

Armadale駅もしくは市内からは

バスが出ているようである。

 

電車にひとり揺られながら、

ひざの上にラップトップを乗せて

試験勉強をしていると、

 

となりに座った二人組みのおばさんが

こちらをじろじろ見ていた。

 

ぼくのコンピューターの画面には、

女性生殖器の解剖図が映っていた。

 

Gray’s Anatomy for Students Flash Cardsには

大変お世話になったが、

解剖学の勉強をする必要の無い人には

いささかショッキングな絵のようだ。

 

Gray’s Anatomy for Students Flash Cards

 

ちなみに、Grey’s anatomy という

アメリカのドラマもご存知の方もいるかと思います。

 

このシリーズ本の原著者Henry Grayの名前をもじって

作られたドラマです。

 

ドラマ『ER緊急救命室』より

恋愛に重点が置かれています。

お好きな方はどうぞこちらから。

 

グレイズ・アナトミー コンプリート シーズン 1 – 10 (DVD)(inport)

 

 

話しが逸れてしまいました。

 

Armadale Hospitalの救急棟の入り口の前には、

救急車が止まっていた。

 

救急患者はすでに病院に運び込まれているようで、

救急車の背面ドアがあがったまま、

車の中には誰もいなかった。

 

車の中の心電図をいじってみたい衝動に駆られたが、

頭の中で「Vesicouterine pouchだっけ?

それともUterovesical pouchだっけ?」と自問し

何とか救急車から離れことができ、

そのまま病院の中へ入っていった。

 

救急棟の入り口の自動ドアが3ミリ開くと同時に、

女性の叫び声が聞こえてきた。

 

泣き声も混じっていることから、

女性が激痛に耐えていることがすぐに分かった。

 

女性は妊娠しており(たぶん)、

となりにはボーイフレンドらしき男性が

彼女をなだめていた。

 

ぼくは「もしかしたら、出産に立ち会えるかもしれない」と

心の中でつぶやいた。

 

ぼくが奥の受付に向かって2,3歩あるくと、

Vesicouterine pouchもUterovesical pouchも、

どちらも正解だということを思い出した。

 

ぼくの指導医師は、Dr. O’Hareさんだった。

 

アイルランド出身の方で、

イギリスの病院で医師をやっていたが、

2年前に豪州に移住してきたと教えてくれた。

 

これは余談だが、

アイルランド人男性のアクセントは

とてもセクシーだいう意見がとても多い。

日本人男性のアクセントは?と

女性の友達にきいてみると、

無言で頭をポンポンとされたことがある。

20歳の小娘に!

 

今回の臨床研修で

問診および身体検査をしたのは、

建設現場で30キロぐらいの鉄板を

足のすねの上に落とし骨がむき出しになった男性、

胸の痛みと呼吸困難で担ぎこまれた37歳の男性の

ふたりのみだった。

 

救急棟で見かけた女性の出産に

立ち会うことは残念ながらできなかった。

 

Dr. O’Hareさんはぼくを、

胸の痛みと呼吸困難で担ぎ込まれた

男性のところに連れて行き、

What would you ask him? といきなり質問してきた。

 

ちょっとびっくりしたぼくは、

his name?と答えた。

 

少し笑ってくれたが、

その表情はいまだに硬く、

What else?とさらにきいてきた。

 

問診が一通り終わると、

What do you notice about him?と

Dr. O’Hareきいてきた。

 

ぼくは

The patient is not in distress.

So, probably no chest pain,

no dyspnoeaと答えた。

 

Good, anything else?

How about around the bed? と

Dr. O’Hareさんはきいた。

 

ぼくは患者さんのベッドの周りを見渡したが、

ベッドの横に患者さんの荷物が

置かれているだけだった。

 

Dr. O’Hareさんの質問の意図が分からなかった。

 

この質問の意図は、

医学生がいい医者になるために

覚えておかなければならないものである。

 

その意図とは、

「医者は、患者さんだけでなく、

患者さんの身の回りも

注意深く観察しなければならない」

ということである。

 

ぼくを含む医学生は、

目の前の患者さんに正しく問診し、

正しく身体検査をするということに集中しすぎて、

患者さんの身の回りまで注意が向かない。

 

Dr. O’Hareさんは

男性のベッドの左横においてある

小さなテーブルを指差した。

 

その上にはオレンジ色のボトルが置かれていた。

 

ぼくはDr. O’Hareさんの言わんとしていることが分かった。

それは、狭心症に使われる

ニトログリセリンの試薬瓶であった。

 

So, he had a heart attack

とぼくが言うと、

Dr. O’Hareさんが満足そうにうなずいた。

 

ぼくの視野は

とても、とても、とても狭い。

 

何かに集中すると

その他のことが見えなくなる。

 

いや正確には、

集中してものを見ていないと、

「見れども見えず」ということが多々起こる。

 

ぼくは実際、

患者さんの周りを見渡し、

オレンジ色の試薬瓶も見にしていた。

 

それでも、

試薬瓶と患者さんをつながりを

見ることができなかった。

 

見ることの大切さを

教えてもらった臨床研修だった。

 

ぼくらが当たり前だと思っている「見ること」。

下の本は「見ること」を見つめ直させてくれる面白い本です。

興味がある方はどうぞ。

 

On Looking by Alexandra Horowitz

 

救急医のドラマ『ER緊急救命室』は

とてもいいドラマです。

英語の勉強にもなると思いますので、

ぜひご覧ください。

 

WBTV60周年記念 ER 緊急救命室 コンプリート

 

 

 

出典:flowtv.org

 

 

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