これから精神科で
実際に病歴問診を行った
患者さんについて書いていく。
患者さんとのやり取りを紹介することに
目的のようなものはない。
それよりは、
物語を傍観するような形で
ぼくの臨床研修を書いていくことにする。
もちろん、患者さんの描写や病歴は
プライバシーを保護するために
脚色が加えられている。
ただ、エッセンスはできるだけ
加工せずそのままにしてある。
(ケース1:男性A、45歳、薬物と幻聴と統合失調症)
指導医のアンドリューさんが、
Aさんを連れてきた。
Aさんは白人男性で
小柄、身長が160cmないぐらいだ。
ぼくは、握手をしながら、
自分が医学生でありAさんに
病歴問診をさせてほしいと許可を求めた。
あからさまに嫌な顔はしなかったが、
無駄に作り笑いをすることもなかった。
しぶしぶ病歴問診に協力してくれた、
という感じだ。
Aさんは、
どこかのバスケットのチームのタンクトップと、
右のポケットに穴が開いた
濃い緑色のバギーバンツをはいていた。
頭はすこし禿げあがっていて、
肩まで伸びた後ろ髪を輪ゴムで束ねていた。
両手首には、たくさんのミサンガが巻かれていた。
ぼくはまず、
Aさんになぜ精神科に通っているのかを聞いてみた。
Aさんはモゴモゴと抑揚なく話すので
すべては理解できなかった。
ただ、いくつか質問をしていくと、
Aさんが薬物(おもにアンフェタミン)の大量摂取で
急性精神病状態になり、
救急病棟に運び込まれ治療を受けた後、
この精神病院に連れてこられたことが分かった。
問診中、Aさんは、
ここに心あらずという感じだった。
時折遠くのほうを見つめたり、
首を少し動かして口を小さく開けたり閉めたりしていた。
まぶたは凍りついたようじっとしていた。
そんなAさんの行動を見て、
ぼくは単刀直入に
「いまここにはいない誰かの声が聞こえますか?」
と聞いてみた。
Aさんのしぐさと顔の表情がかすかに変化した。
どこがどう変わったのか説明できないが、
Aさんがこの質問に対してcomfortableではないことはわかった。
指導医のアンドリューさんも
Aさんのわずかな変化に気づき、
「Aさん疲れているようだね。
今日はこれぐらいにしようか」
と言った。
ぼくも
「Aさん、どうもご協力ありがとうございました」
と握手をし、Aさんが出ていくのを見送った。
Aさんのカルテには、
幻聴・幻覚に悩まされていることが書かれていた。
2年生の医学生が出会った精神科の患者さんたち
(ケース1:男性A、45歳、薬物と幻聴と統合失調症)
(ケース2:女性B、37歳、失禁と夢とうつ病)
(ケース3:女性C、47歳、想像妊娠と妄想型統合失調症)
(ケース4:男性D、65歳、怒りと妄想型統合失調症)