オーストラリアの医学生が精神科の研修で見た4つのケース

 

学校の臨床研修で精神科に行ってきた。

午前中は臨床実技のクラスがあったので、

クラスのあと、友人と待ち合わせをして、

友人の車に乗せてもらい

精神科のある病院へと向かった。

 

その友人はすこし変り者で、

Satanic Metalの音楽をかけながら

車を運転していた。

 

(サタンメタル?

日本ではなんて訳されているのだろう?

Black metalなのかと思ったが、友人に言わせると、

Black metalとSatan metalは別物らしい)

 

医者になる人が

この系統の音楽を聴いていることに

不安を覚える人もいるかもしれない。

 

それは、健常な心配だと思う。

 

ただ、この友人から危険な匂いがしないので、

10代の頃の反抗期が

いまだに体に染みついているのかなぁ、

程度の印象しかぼくは持っていない。

 

良くも悪くも、

若いころは宗教的な意味よりも、

確立された社会のルールに反抗するためのツールとして、

この系統の音楽を聴くことがあるのだ

(ぼくもその一人だ)。

 

友人が駐車場を見つけるために病院を一周した。

どこの駐車場も有料だったので、

近所の空き地に車をとめた

(学生はお金を少しでもセーブしたいのだ)。

 

車のドアを開けると、

真夏の日差しが腕時計の表面を白く照り付けた。

病院に着くころには、

友人の背中が汗でにじんでいた。

 

病院の受付の看護婦さんに

UWAの医学生ですが、と話しかけると、

ここにサインしてこっちにおいでと言われた。

 

サインしたのは、

病院職員の入出表だった。

 

ぼくが記入した上の欄に

医学部の友人の名前が書いてあった。

前日の研修で来たみたいだ。

 

看護婦さんは40~50歳ぐらいの方で、

右手に金色の縁取りをした懐中時計を持っていた。

 

ぼくたちが通されたのは、

職員の休憩室だった。

 

部屋の隅には

従業員の冷蔵庫と

そのそばには流し台があり、

洗われたばかりのコーヒーカップが

逆さまに置かれていた。

 

部屋の中には

楕円形のテーブルと

その周りに椅子がおかれていた。

 

その椅子の一つに、

アボリジニ系の女性が

ひとりポツンと座っていた。

 

居心地が悪そうに座っていたので、

研修に参加している同級生だとすぐに分かった。

 

同級生は約220人もいるので、

挨拶もしたことがない人が多くいる。

 

それでも、キャンパスで目が合うと、

瞼を少し上に持ち上げて

挨拶の一歩手前のようなことはする。

 

ただ、このアボリジニ系の女性には

一度もあったことがなかった。

 

彼女のほうはぼくのことを知っているみたいだった

(日本人はぼく一人だけだから結構有名になるみたいだ)。

 

ぼくは、

頭の中の床の間まで調べてみたが、

彼女の顔は浮かんでいなかった。

 

場所不案内な医学部生3人が肩を寄せ合って、

テーブルを囲んで待っていると、

4人目の医学生が

みぞれのような汗を額にかかえて休憩室に入ってきた。

 

この女性は知り合いで、

とても精力的なインド系の女性だ。

 

彼女が汗を乾かそうと

エアコンの下に歩き出したとき、

長いひげを生やした男性が部屋に入ってきた。

 

彼のひげは、

逆さまにしたパイナップルの葉のように、

いろんな方向を向いていた。

 

パイナップルの葉っぱが上下に開き、

「UWAの学生さんたちかい?」

と優しい声が漏れてきた。

 

4人とも口を開かずに頷いた。

「これから病院の案内していく

先生に会わせてあげるからから

付いておいで」と言われた。

 

パイナップルは担当の先生ではないらしい。

 

担当の先生は、

30代後半もしくは40代前半ぐらいの

インド系の女性だった。

 

パイナップルは、

その女性に二言三言喋ると、

いたずらっ気のあるウィンクをして

どこかに行ってしまった。

 

担当の先生は、

ぼくら学生4人を引き連れて、

隔離病棟を見せてくれた。

 

隔離病棟に入る直前、

ぼくの頭の中には映画『羊たちの沈黙』で

特別な檻に隔離された

レクター教授の姿が思い浮かんでいた。

 

厳重な2重扉をクリアして中に入ると、

職員がナースステーションで昼ご飯を食べていた。

 

残念ながら、

患者さんの姿はひとりも見られなかった。

 

外で運動をしているらしかった。

 

緊急時以外はできるだけ

隔離病棟から出てもらう努力をしているようだ。

 

隔離病棟を離れ

となりの外来病棟に着くと、

インド系の担当の先生は、

ぼくら学生4人グループを二つに分け、

また別の医者にぼくらを引き渡した。

 

インド系の彼女も、

パイナップルと同じような

いたずらっ気のあるウィンクをして

どこかに行ってしまった。

 

ぼくは、

いまだに額に大汗をかいていた友人と一組となり、

インターンの男性(20代後半ぐらい)の後をついていった。

 

このインターンは正直、

精神科に興味がある医者ではなかった。

 

どちらかといえば

インターンシップの一環だからしょうがなく精神科にいるんだ

という印象の人だった。

 

それでも彼は、

ぼくら学生ふたりを小さな部屋で待つように指示し、

病棟の中を歩き回り患者さんを見つけてきてくれた。

 

2年生の医学生が出会った精神科の患者さんたち

 

これから

精神科で実際に病歴問診を行った

患者さん4名について書いていく。

 

患者さんとのやり取りを紹介することに

目的のようなものはない。

 

それよりは、物語を傍観するような形で

ぼくの臨床研修を書いていくことにする。

 

もちろん、

患者さんの描写や病歴は

プライバシーを保護するために

脚色が加えられている。

ただ、エッセンスはできるだけ

加工せずそのままにしてある。

 

ケース1:男性A、45歳、薬物と幻聴と統合失調症)

ケース2:女性B、37歳、失禁と夢とうつ病)

ケース3:女性C、47歳、想像妊娠と妄想型統合失調症)

ケース4:男性D、65歳、怒りと妄想型統合失調症)

 

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出典:en.wikipedia.org

 

 

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ごとうひろみち
『高校中退⇒豪州で医者』をいつも読んでいただき誠にありがとうございます。著者・ごとうひろみちに興味を持ってくれたあなたのために、詳しい自己紹介を←ここでしていますので、どうぞご覧ください。

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