オーストラリア医学部、へき地医療研修の診療能力検査
(1)咳をしている3歳の男の子
<シナリオ>あなたのクリニックに、3歳の男の子がお母さんに連れられてきました。男の子は昨日から体調が悪く、微熱、鼻水、食欲減退、犬吠様咳を発症しています。男の子が住んでいる場所は、クリニックと病院から2時間離れた場所です。あなたは町医者です。どうしますか?
犬吠様咳
検査官に質問すれば与えられる情報
問診
- 病歴無し
- 処方薬無し
- アレルギー無し
- ワクチン接種有り
- 他の家族は元気
身体検査
- おもちゃで遊んでいる
- 体温 37.1
- 心拍数 100
- 呼吸数 20
- SaO2 93%
- 異物混入無し
- 喘鳴無し
- 痰無し
それでは、ぼくが実際に犯した間違いを含め、すべてお話しします。
ぼくが実際にやったこと
診断:クループ(犬吠様咳)
説明:ウイルスの病気(抗生物質いらないよ)
治療:酸素マスク(93%だから)、吸入ステロイド、噴霧アドレナリン
フォローアップ:様態が悪化したら病院にすぐに行ってください
ぼくがやらなければいけなかったこと
診断:クループ(犬吠様咳)
説明:ウイルスの病気(抗生物質いらないよ)
治療:患者の観察のみ(悪化すれば、酸素マスク、経口ステロイド、噴霧アドレナリン)
フォローアップ:お母さんと男の子に町にいてもらうこと(症状が悪化したときのために、町の近くに2、3日滞在することはできませんか?)
ぼくが学んだこと
ぼくはこの検査をパスできなかった(と思う)。ぼくが行った治療が一般的な治療とそこまで違うわけではないにもかかわらず、である。なぜか?
実は、診療能力検査の検査官が求めていることは、「患者を完璧に診断・治療・フォローアップできる能力」ではない(できれば高得点を稼げるが・・・)。検査官が重要視していることは、「どうやって診断・治療・フォローアップすればいいか分からない状況で、やみくもに診療行為を行わないこと」「分からないことを素直に認め、シニアの医者に連絡をしてどうすればいいかアドバイスを求めたり、医療ガイドラインを確認すること」である。
ぼくは正しい診断を下したが、クループをどうやって治療すればいいのか頭に入っていなかった。それでも、ロジカルに考えて上記のような治療を行なおうとした。自分の頭で考えようとしたこと自体は悪い行為ではない。しかし、「危険な行為」でもある。もしぼくのロジックが間違っていたら、医療ミスにつながるからだ。
「知らないことは知らない。だから、シニアの医者にアドバイスを求めたり、医療ガイドラインでクループの対処法を確認します。」と言うことができていたなら、パスできたと思う。
今回の診療能力検査は失敗したが、収穫はデカかった。「知らなくてもいい」「知らないなら、ヘルプを求めれば診療能力検査をパスできる」ということが分かったからだ。もちろん、「全部わかりません」だと落第すると思うけど、医療知識の記憶があいまいな時は、このことを知っているだけで、診療能力検査を落とすことは無いと思う。
それでは、次のシナリオ「(2)手を怪我した53歳の男性」を見ていこう。
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