うちの大学(西オーストラリア大学)の医学生は、
2年次の後期から卒業までの2年半の間、
Research、Service Learning、Course Workの
どれかひとつの専門課程を選択しなければならない。
Research の目標は、研究成果を学会で発表したり、科学雑誌に論文を掲載することである。
Service Learning の目標は、学者が立てた仮説に基づいて活動しているNGOグループに参加し成果をあげることである。
Course work は、医学部卒業証書のほかに、Master of Education、Master of Public Health、Master of Business Administration (通称MBA)などの学位を取得することが目的である。
ぼくは研究が大好きである。
だから、Researchを選択することになると思う。
Researchを選択する場合、
大学側が紹介する研究プロジェクトを選んでも良い。
しかし、自分の興味がはっきりしている人は、
自分で研究プロジェクトを見つけてきても良い。
ぼくは、
京大の山中教授、慶応の岡野教授、
そして理研の小保方氏の影響で、
幹細胞の研究に従事してみたいと考えている。
入学当初は、
STAP細胞の技術をオーストラリアに輸入するために、
小保方氏のところでトレーニングをしようと思っていた。
しかし、あんなことになってしまい、
いまは研究対象をiPS細胞に転換することを考えている。
不幸にも、うちの大学には、
iPS細胞の研究を専門にしている人はひとりもいない。
医学部にiPS細胞の研究に従事したいのだが
教官になれるような人が見つからないと相談すると、
「よし、分かった。こちらでも探してみるよ」
と言って教官探しに協力してくれた。
約一ヵ月後、
医学部からメールがあり、
Prof. Rodney Dilleyに接触してみてはどうか
とのアドバイスがあった。
ぼくは、その日のうちにDilley教授にメールをだし、
iPS細胞を使った研究プロジェクトがあるかどうか
聞いてみた。
後日送られてきた
Dilley教授からの返信には、
iPS細胞のプロジェクトはあるけど
立ち上げの類のものだから、
理研での研究のように
エキサイティングじゃないよと書かれていた。
これは吉報だった。
Researchを選択する医学生は、
2年半の期間内に
合計約750時間のResearchに
従事しなければならない。
週7時間やれば十分クリアできるハードルだが、
長年研究に従事してきたぼくは、
こんな短い時間で論文を出すことは
難しいことを理解していた。
だから、
Dilley教授の立ち上げの類のプロジェクトが
理想的だとぼくは判断した。
ぼくはこのことを
Dilley教授への返信メールに書き、
研究室に一度お邪魔をしても良いかと添えた。
Dilley教授はすぐに返事をくれ、
来週の木曜日のお昼ごろにいらっしゃいと言ってくれた。
ぼくは言われた時間に
入り口の警備官にDilley教授と面会の約束があると伝えた。
この研究所は、
とても警備が厳しく、
外部の人間が
自由に出入りできるところではない。
ぼくが話した警備官は、
「ザ・警備」とあだ名をつけたくなるような
筋肉質のマオリ系男性だった。
ぼくが窓越しに青空を眺めていると、
Dilley教授が入り口のロビーに迎えに来てくれた。
マイケル・ダグラスに似ている。
「やあ、君がひろかい。Nice to meet you.」
「Great to meet you too, Professor Dilley.」
Dilley教授が手に持っていたカードで
従業員専用のゲートを開け、
ぼくを先に誘導した。
エレベータも
従業員のカードが必要だった。
カードなどを良く落とすぼくには不向きな研究室のようだ。
Dilley教授の部屋で研究内容の話をした後、
研究室のメンバーを紹介してもらい、
そして研究室の中を見せてもらった。
Harry Perkins Instituteは
とても素晴らしい施設で
質の高い研究ができる環境である。
Dilley教授と研究室のメンバーとも馬が合いそうなので、
Researchを選択するのであれば、
ここで決まりである。
後は、
Rural Clinical Schoolに受かるかどうかで、
ぼくの2年半の活動が決まる。