「変な人」を政府が支援するプログラム異能vationを耳にしたことがある人は多いと思う。プログラムに関する詳しい内容は過去の記事「異能vation、に応募します」をどうぞ。
政府公認の「変な人」になるためには、1次選考(書類審査)と2次選考(プレゼン+Q&A)を通過しなければならない。異能vationが発足された2014年以来、これまでたくさんの人たちが応募し、1次選考と2次選考を通過してきた。
これまでの選考通過者とその内容はこちらをどうぞ。
アメリカには、シリコンバレーというイノベーションが起こりやすい地域がある。個人的に異能vationに選ばれやすい地域があるかどうかに興味があったので、勝手にデータを解析して推測してみた。都道府県の特性をあぶりだすケンミンSHOWと呼ばれる番組があるらしい(ぼくは観たことが無い)ので、そのタイトルをつかって、異能vation「ケンミンSHOW」をやってみることにした。
1次選考通過者、でケンミンSHOW
日本には47都道府県がある。これまで異能vationの1次選考に通過してきた人たちがどこにいるのかを調べてみて、住んでいる地域が異能vationを生み出す環境かどうかを考察してみる。まず、1次選考通過者が応募した時に住んでいた都道府県(←出身地ではない、と思う)を見てみよう。
これまで1次選考に通過した人の合計数は、112名。都道府県は47あるので、住んでいる地域が異能vationに影響しないのであれば、1都道府県当たり2.4人(112÷47=2.4)の1次選考通過者がいる計算になる。さて、実際のデータはどうか。
図1:都道府県別1次選考通過者の合計数
図1は、異能vationの1次選考通過した人の合計数を都道府県別に見ている。東京から通過者がたくさん出ていることが一目で分かる。このデータから、東京が異能vationに有利、ということにはならない。まず、総人口が違うからだ。人口が多ければ多いほど、異能vationの選考を通過する人の数は確率的に増えていく。
そこで、このデータを都道府県別総人口で割ってみるとどうなるだろうか?(都道府県の人口は、こちらのデータを参考にしている)
図2:都道府県別1次選考通過者の割合(100万人当たり)
図2は、各都道府県に住んでいる人(100万人)当たり何人の1次選考通過者がいるかを示している。ばらつきがある都道府県の総人口を考慮して再計算してみても、やはり東京の1次選考通過者の数は突出している。東京に住んでいる100万人が異能vationに応募すれば、3.2人が1次選考に通過した計算になる。
2次選考通過者、でケンミンSHOW
1次選考通過者のケンミンSHOWのデータを議論する前に、2次選考通過者のケンミンSHOWに移ってみよう。同じようなデータを示す。まずは、都道府県別2次選考通過者の合計数。
図3:都道府県別2次選考通過者の合計数
これまた、東京が断トツで多い。1次選考を勝ち抜いている人の数が多いので、これは驚くには値しない。それでは、人口比で見てみるとどうなるか?
図4:都道府県別2次選考通過者の割合(100万人当たり)
図4は、各都道府県に住んでいる人(100万人)当たり何人の2次選考通過者がいるかを示している。ばらつきがある都道府県の総人口を考慮して再計算してみても、やはり東京の2次選考通過者の数は突出している。東京に住んでいる100万人が異能vationに応募すれば、1.2人が2次選考に通過した計算になる。数字のゼロは、全ての1次選考者が2次選考に通過できなかったことを示している。
それでは、最後に1次選考通過者のうち何%が2次選考を通過したかを見てみよう。
図5:都道府県別1次選考者/2次選考通過者の割合(%)
図5は、都道府県別の1次選考者÷2次選考通過者の割合(%)を示している。100%は、1次選考通過者のすべてが2次選考を通過している。それに対して0%は、1次選考通過者のすべてが2次選考を落選していることを示している。
100%をたたき出している長野県、大分県、京都府、宮城県、茨城県の一次選考通過者の数はそれぞれ1人(茨城は2人)で母数の数が非常に少ないため、統計学的に意味のある議論をすることはできない。
それでは、母数が比較的多かった東京を見てみるとどうだろう?東京都から応募した1次選考通過者のうち、37.2%の人が2次選考に通過している。これまで行われてきた異能vationの1次選考通過者の総計は112名で2次通過者の数は34名であるため、平均すると約31%となる。東京の数値は、若干高いのかもしれない。(統計的検定は面倒なのでしません。興味があればご自分でどうぞ)
異能vationのケンミンSHOWの考察
これまで、都道府県という環境の違いが、異能vationの「変な人」たちの出現に影響を与えているかどうかを示すデータをまとめてみた。そのデータから考察できることをこれから議論してみようと思う。
まず、1次選考・2次選考ともに、東京都の異能vation選考通過率が高いことは示唆できる(図1~4)。東京都の高い通過率の原因がどこにあるかは分からないが、一般的に考えてみると、3つの可能性があると思う(別の可能性を否定するわけではありませんよ)。
可能性1:東京都は異能を生みやすい環境である
東京には様々な環境が用意されている。自然もあれば大都会という部分もある。日本人だけでなく異国の文化を持つ人と触れ合う機会も劇的に多い環境である。この環境の多様性が、異能vationに値するようなアイデアを生み出している可能性がある。それだけでなく、異能な人が東京の環境に魅かれて住み始める可能性もある。
可能性2:異能vationの意義を理解している人が多い
東京に住むだけで、総務省がやっている異能vationのプログラムのことを知る機会が多くなり、どのようなアイデアが求められているかを理解できている可能性がある。それに対し、異能vationの内容がよく知られていない県に住んでいる人は、異能vationを良く理解せずに「ただ」応募している可能性がある。異能vationの意義の理解度の違いが、人口比の通過者数に影響を与えているのかもしれない。
可能性3:異能vationのアイデアが目につきやすい
異能vationの選考員であるスーパーバイザーは東京で活動している人が多い。このことは、東京発のアイデアが過去に、スーパーバイザーの目に触れて脳裏に残っている可能性があるということだ。人は潜在的に親和性のあるものを選択することが分かっている(参考文献)。そのため、過去の知識が選考に影響を与える可能性を否定することはできない。ただ、異能vationの選考は、応募者の名前が伏せられた状態で行われるため、スーパーバイザーの知り合いだから優先的に通過することは理論上ない。それでも、応募者とスーパーバイザーが知り合いで、応募者のアイデアがスーパーバイザーにとって親和性の高いものであれば、そのアイデアが選考通過する確率は高くなるかもしれない。この可能性を調べるには、スーパーバイザーが選考以前にそのアイデアを知っていたかをアンケートで確かめればいい。
異能vationの通過者がいない都道府県
これまで、異能vationの通過者を輩出している都道府県に注目してきた。最後に、通過者が全くいない都道府県がどこなのかを見て終わりにしたいと思う。異能vationの1次選考通過者がひとりもいない都道府県は、つぎの24か所である。
青森県
山形県
福島県
栃木県
群馬県
新潟県
富山県
福井県
山梨県
岐阜県
静岡県
三重県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
山口県
徳島県
愛媛県
高知県
佐賀県
長崎県
熊本県
沖縄県
異能vationがこれからも行われれば、すべての都道府県から通過者が出てくることは予想される。しかし、万が一、選考通過者がでてこない都道府県があるとしたら、そこにはとんでもなく貴重な知見が隠されている可能性がある。異能vationが起こらない環境が分かれば、異能vationを起こせる環境を作為的に作れるかもしれない。そんなことも考えながら、異能vationの動向を注意深く見守っていきたい。
出典:まとめNAVER