産婦人科が終わると、
つぎは小児科のロテーションに入る。
ぼくが医学部3年生を過ごしているブルームにも、
たくさんの子供たちがいる。
お母さんの後ろに隠れているシャイな子もいれば、
ぼくの首にかけてある聴診器を掴んで遊ぼうとする子もいる。
4週間の間にいろんな子供たちに出会った。
その中でも、
先住民の子供たちは、
心に残っていることが多い。
というのも、
先住民ではない子供たちとは
違った病気にかかることがあるからだ。
そのなかでも、
印象に残っている症例を3つ挙げてみようと思う。
女の子A(4歳)
1か月前、
裸足で走り回って右足に切り傷を作り、
そこが腫れ物になり化膿する。
高熱、腹痛、嘔吐があり、
病院で抗生物質をもらい回複する。
その後、
関節の痛みを訴え、
母親に連れられて緊急病棟に来る。
ぼくがAちゃんの顔を診ると
目の周りに浮腫があることが分かった。
尿検査をすると、
大量の血液とタンパク質が検出された。
写真の女の子は、
Aちゃんではないが、こんな感じだった。
男の子B(7歳)
数週間前、
B君はお母さんに連れられて
ビジダンガ・クリニックに来る。
症状は、のどの痛みを伴う風邪の症状だった。
ウィルス性の症状だろうと
抗生物質は処方されていなかった。
ぼくが、クリニックで診たときは、
関節の痛み、発心、舞踏病があった。
かすかではあったが、
心雑音も聞き取れた。
舞踏病とは、
連続的な無意識な筋肉の動きのことで、
踊っているように見えることから名前が来ている。
動画の子は、
B君ではないが、
こんな感じだった。
男の子C【12歳】
一年前に、
のどの痛みを伴う風邪の症状があり、
抗生物質をもらい回復する。
ぼくが、Beagle Bay ClinicでC君に会った時は、
息切れと胸の痛みが見られた。
胸に聴診器を当てると、
これまで聞いた中でも一番はっきりとした心雑音が聞こえてきた。
12歳の若さにもかかわらず、
心臓に異常があることは一目(聴)瞭然だった。
彼の心臓音はこんな感じだった。
これまで、
ぼくが出会った3つの症例を紹介した。
目の周りの浮腫が出たAちゃん、
舞踏病に悩まされたB君、
心臓を患っているC君。
なぜ、3人の症例がぼくの印象に残っているかお分かりだろうか?
実は、これらの症例は一見まったく違った病気のようだが、
病態生理学的には同じで、
Group A Streptococcus(A 群溶血性レンサ球菌)による感染症が原因なのだ。
そして、この3つの病気に共通することが、もうひとつある。
それは、治療を受けなければ、
AちゃんもB君もC君も若くして死んでしまう、ということだ。
日本を含め、
世界中の子供は、
Group A Streptococcusに感染する。
でも、ほとんどの子供は、
Post-streptococal glomerulonephritis (Aちゃん)、
Rheumatic Fever (B君)、
Rheumatic Heart Disease(C君)などを発症しない。
もっと、詳しく言うと、
先住民ではないオーストラリアの子供たちもほとんど罹患しない。
それにもかかわらず、
Group A Streptococcusの合併症にかかる
先住民の子供たちは少なくない。
統計によると、世界最悪にちかい罹患率である。(詳しくはこちら)
ここに、オーストラリア医療の大きな問題が残されている。
Group A Streptococcusの合併症だけではない。
同じオーストラリア人なのに、
非先住民と先住民という違いだけで、
寿命が10歳も違ったり、
心臓病、糖尿病、腎臓病の罹患率など、
様々なところで医療の格差が存在する。
この格差をGapと呼び、
オーストラリア政府は、
医療だけでなく、政治、経済、教育などの多面的な取り組みによって
このGapをなくそうとしている。
(Closing the Gapのことを知りたい方は、こちらをどうぞ)
ぼくも、オーストラリアの医学生として、
この取り組み『Closing the Gap』に参加している。
Service Learningの一環で、
先住民の高校生を相手に
健康について授業を行っている。
出典:www.healthinnovation.org.au