ぼくが働いている Sir Charles Gairdner Hospital の腎臓科のローテーションは、インターン医師やレジデント医師に人気がある。人気の理由は、

  1. ローテーションが始まる前に渡される「虎の巻」のような冊子に、腎臓科でどのように仕事をすればいいかということがプロトコール化されている
  2. レジデント医師は定期的にレジストラ医師(レジデント医師の先輩にあたる)の仕事をする。具体的には、病院内の別の科(もしくは別の病院)からの電話を受け取り、腎臓科に関する問題に対応する
  3. 教育熱心なコンサルタント医師が多い
  4. 毎週行われる腎臓科のレクチャーには美味しい昼飯が提供される

 

仕事のプロトコール化

この記事の目次

腎臓科の仕事がプロトコール化されていることの利点は2つある。まず、インターンやレジデントなどの経験が不足している医師に、「こんな腎臓科の問題が頻繁にあって、こうやって対応しますよ」と教えることができる。そして、その教育が上手くできていれば、先輩の医師は煩雑なことに時間を使う必要がなくなり、より専門的な問題の解決に尽力できる。つまり、若い医師の教育が進むだけでなく、先輩医師の成長も進み、腎臓科全体の教育クオリティが向上するのだ。

実は、病院のローテーションの中には、何をすればいいか分からないまま仕事の初日を迎えるものが存在する。看護師さんやレジストラ医師やコンサルタント医師に、「何をすればいいの?」「どうやってやればいいの?」と聞きながら仕事を始めるので、とても効率が悪く、精神的なストレスがかかる。もちろん、経験不足のインターン医師やレジデント医師は常にこの質問をしながら仕事をしているのだが、一挙手一投足においてこの質問をしなければいけないのは、自尊心と仕事への熱意の低下につながる。この点において、仕事がプロトコール化されていると、経験不足の医師でも自分の役割がはっきりとしているので効率的に仕事をこなすことができ、また自尊心の向上にも貢献してくれる

 

先輩のレジストラ医師の仕事を代役

インターン医師やレジデント医師は基本的に、先輩医師であるレジストラ医師やコンサルタント医師からの指示を受けて、仕事をこなすことが多い。そうやって、インターン医師やレジデント医師は、臨床現場における知識やスキルを培っていくのだ。そして、経験を積んだインターン医師やレジデント医師はいずれ、レジストラ医師、コンサルタント医師と成長してく。

インターン医師とレジデント医師の間に大きな違いはない。しかし、レジデント医師とレジストラ医師の間には大きな違いがある。まず、レジストラ医師は直接的な責任を患者さんに対して負う。Sir Charles Gairdner Hospital のような Teaching hospital の場合、患者さんへの臨床決断はレジストラが負うことが多い(もちろん、複雑なケースは、コンサルタント医師が決断を下すのだが、一般的な臨床問題の対応はレジストラ医師が行う)。

さらに専門科のレジストラ医師は別の科の医師から専門的な質問を受ける。例えば、虫垂炎の手術を受けた患者さんの糖尿病が上手くコントロールできていない場合、外科の医師は内分泌科のレジストラ医師に連絡をしてアドバイスを求めたりする。人間の病気というものはとても複雑に絡み合っているため、複数の専門科の医者がケアに参加することで包括的に解決しようとするのが現代医療のやり方である。

Sir Charles Gairdner Hospital の腎臓科のレジデント医師は、週に1日から2日だけレジストラ医師の携帯を持たされ、病院内の別の科(もしくは外部の病院)から質問に対応する。ほとんどの場合、「コンサルタント医師に相談してその結果を連絡します」という感じで、メッセンジャーの役割しか果たせない。それでも、レジストラ医師としてこれまでにない大きな責任を負うことになるので、医師としてグッと精神的な成長をすることができる。

 

教育熱心なコンサルタント医師

Sir Charles Gairdner Hospital の腎臓科のレジデント医師は時にレジストラ医師の仕事をする、と上に書いた。それだけだと経験不足なレジデント医師に精神的な負担がかなりかかるのだが、Sir Charles Gairdner Hospital の腎臓科のコンサルタント医師はとても教育熱心で、レジデント医師に真摯に接してくれる。コンサルタント医師がしっかり対応してくれるので、経験不足のレジストラ医師は躊躇することなく質問することができ、臨床知識とスキルが大幅に改善され、仕事へのやる気の向上につながる

 

美味い昼食

Sir Charles Gairdner Hospital の腎臓科のインターン医師やレジデント医師は、週1回1時間ほどの腎臓科の講義を受ける。その講義は、大体自分たちがケアに当たっている患者さんが症例として使われていて、学習のスピードが加速するようにデザインされている。それだけでも嬉しいのだが、育ち盛りのインターン医師やレジデント医師に与えられる昼食は、とても美味い。この昼食を食べるためだけに、腎臓科のローテーションを希望する医師がいるほどだ。

How to add a gourmet touch to your work lunch

 

それでは、腎臓科で出会ったAさんの話をしようと思う。

 

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ごとうひろみち
『高校中退⇒豪州で医者』をいつも読んでいただき誠にありがとうございます。著者・ごとうひろみちに興味を持ってくれたあなたのために、詳しい自己紹介を←ここでしていますので、どうぞご覧ください。

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